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まち活事例2『「ナガスタ」のアップサイクル』
金澤 萌(かなざわ もえ)さん、黒木 真由(くろき まゆ)さんにインタビュー
金澤さんは、2019年に廿日市市の佐伯地域へ移住し、左官職人をされています。
黒木さんは、臨床検査技師として病院で5年間勤務された後、市役所の地域支援員として佐伯地域の活性化を担っていました。
佐伯地域で二人は出会い、その後、合同会社「とこらぼ」を設立、地域の人に愛されるお店「ナガスタ」を始められています。
「ナガスタ」について教えてください
「ナガスタ」は、(1)古物商事業、(2)アップサイクル事業、(3)レンタルスペース事業の3本柱で営業しているお店です。廿日市市津田の商店街にあった空き店舗「ナガタストアー」を「ナガスタ」にアップサイクルしました。
(1)古物商事業は、地域の不要品がナガスタに届き、「みんなが要らなくなった物を次の人につなげよう」をコンセプトにやっています。古物商というと、買い取った品物を売るのが一般的だと思うのですが、「ナガスタ」では、あえて買取りはせずに、思いのこもった物を次の人に繋いでいくイメージです。そこは、他のお店とは違うかなと思っています。
このコンセプトは、最初はなかなか理解してもらえなかったのですが、今では「大事にしていた物を他の業者さんに安く買いとられるぐらいなら、大事にしてくれる人のところに届けて欲しい。」と持って来られる方が多いです。
また、そうやって届いた物を元に(2)アップサイクル事業をやっています。アップサイクルは、使わなくなった物に新たな価値を見つけて、別の新しい物に生まれ変わらせることです。
少し作り変えるという作業でも、作り変えた人が元気になったり、物にも新たな価値が生まれたりします。空き店舗だった「ナガスタ」がアップサイクルされていくことで、地域もみんな元気になってくるから、最終的には「地域を巻き込んでアップサイクルしましょう」という思いでやっています。
(3)レンタルスペース事業としては、飲食店やお菓子の製造などに使えるシェアキッチンが2つとイートインスペース、整体や個展、ワークショップなどができる小部屋をレンタルしています。
また、「ナガスタ」にある物や買った物で何かを作りたいという人も多いので、工具を揃えて作業ができる「アップサイクル工房」という部屋も作りました。お客さんが買った物を、「ちょっと修理して欲しい、サイズを変えて欲しい。」という要望があれば、工具を使えるメンバーが修理などもしています。
他に「コミュニケーションやご縁が生まれる部屋」や、離れを使った「打ち合わせや会食の場、コワーキングのレンタルスペース」もあります。
合同会社を始めたきっかけを教えてください
金澤さん)
私が佐伯地域に移住して間もない頃に、商店街について考える「円卓会議(津田商店街を創る会)」の情報が、市民センターに貼り出されていたんです。それを見て、「この商店街は何かやろうとしているんだな。」と感じました。
もともと埼玉では左官業と並行して、再開発が決まり取り壊される予定の商店街を拠点にまちづくりの活動をしていました。その時の経験を活かし、広島では自分が暮らす地域で、まちづくりや商店街に関わることがしたいと考えていたので、「この円卓会議に入れば、何かできるかもしれない。」と思っていました。
黒木さん)
その頃、私は市役所の地域支援員をしていて、「津田商店街を創る会」の立ち上げたぐらいの時期で、活動のキーマンを探していました。そこで金澤を円卓会議に誘ってみたんです。
金澤さん)
それで「絶対行く!」となって、参加した円卓会議で、「私は津田商店街のことを知らないから、自分が商店街で何屋をするかを決めていません。何屋さんをしたら良いかアンケートを取りたいです。」と相談しました。商店街のマルシェでアンケートを配らせてもらえることになり、しかも自分も出店(タイルのワークショップ)しました。
黒木さん)
そのときのアンケートの結果は、廿日市市のホームページに載っています。商店街にあったら良いと思う店舗は、カフェやパン屋さんの希望が多かったです。
金澤さん)
その後、津田商店街を創る会の皆さんと「マルシェが終わったから次は何をする?」という話題になったんです。その時、「この商店街のどこが空いてるのか分からないから、空き店舗ツアーをやってほしい。」と伝えたら、みんなが「良いよ。」と言ってくれました。
空き店舗ツアーをきっかけに知り合った同世代の人たちと「次は何したい、あれしたい。」と、2カ月ぐらい頻繁に集まって話し合いました。そこで、最終的に今の「ナガスタ」につながる案が出て、黒木と私でやっていくことになりました。
実は、空き店舗ツアー以外にも不動産屋さんを回ったりしましたが、なかなか良い物件が見つからず、津田商店街を創る会の会長に相談したところ、「閉店したスーパー(ナガタストアー)があるから交渉してあげよう。」と言ってくださり、おかげでナガタストアーを貸してもらえることになりました。
また、資金のことなどを商工会の方に相談に行ったら、「ひろしまベンチャー助成金に挑戦してみたら。」という情報をいただき、挑戦することにしました。事業計画書の書き方を指導してもらいながら、計画書なるものを初めて書きました。何度も書き直す中で、「最終的に二人がやりたいのは、アップサイクルだね。」と言っていただき、「じゃあ、私たちアップサイクルという言葉を軸に活動します。」ということになりました。
助成金の申請と同じタイミングで、空き店舗ツアーで出会った「水田シューズ」さんで店舗の中の商品が片付いたら誰かにお店を貸すことも考えたいという声をもらい、「それなら蚤の市を開催してみよう。」となりました。それがうまくいって、結果的に所有者さんも喜んでくださいました。そこで2回開催し、3回目は我が家のウッドデッキでやりました。その3回の実績もあって、これを続けるために拠点が必要だから、ナガスタを運営しますというストーリーで計画書を仕上げ、プレゼンテーションに挑みました。その結果、「エコ特別賞」に選ばれ、賞金100万円をいただきました。
黒木さん)
その受賞の連絡がきた後、2人で話をして「合同会社とこらぼ」を設立しました。
金澤さん)
埼玉にいた時は個人事業主だったのですが、法人の方が何かとまちづくりに関わりやすいのを見ていたので、「こっちで何かやるなら絶対会社だ。」と思っていました。「株式にして他の人の意見を入れるというのは嫌だな、自分たちで決めたことでやりたい。」と思っていたので、結果的に合同会社というカタチで法人を立ち上げることになりました。
「ナガスタ」を始めた時の反応はどうでしたか?
金澤さん)
はじめは、ナガタストア-の中は多くの物が残った状態だったので、空き店舗ツアーで知り合った人を中心に、みんなで店内の片付けをしました。所有者さんの協力もあり、片付けの間は家賃なしという条件にしてもらい、約4か月間家賃は発生していないです。
ある程度片付けが終わったら、ゼロからお披露目していこうと考えて、そこで蚤の市をしました。「今の状態が変わっていくのを見てね。」みたいな思いがありました。
この頃は近所の人たちがたくさん来ることはなく、みんな恐る恐る見ている感じでした。その後は、片付けとお店作りを並行しながら、月に10日ぐらいのペースで店を開け、少しずつお店ができていく過程をシャッター開けて見てもらえるように心がけていました。
普通は、完成した後にオープンじゃないですか。ナガスタは、準備期間中も、片付けと小さいイベントなどを繰り返しながら店を開けており、その間にはクラウドファンディングを活用して、シェアキッチンやトイレを作ったりしていきました。
最初は恐る恐る来ていた近所の人たちが、差し入れを持ってきてくださるようになったり、お互いに名前を覚えたりとか。準備期間に店を閉めていて、いきなりオープンだったら、きっと人は来なかったと思うんです。準備中の店の中で「この辺、今日作業中だから」みたいなのを繰り返しながら、ずっと店を開けているので、お客さんも「ここ、変わったね。」、「今度ここがきれいになったね。」と、その変化を楽しんでくれる方が多かったです。
黒木さん)
お店の成長を見守ってくれるという感じでした。
金澤さん)
2年の準備期間を経て、2022年の春から定休日を決めて、正式にオープンしました。
今は、どんな場所になっていますか?
黒木さん)
人の関わりが生まれる場所になっています。「なんか面白そう。」と来てくれる人もいたり、全然知らない人たちから「とりあえず引っ越したらここに行きなさい」と言われて来たんですけど、とかもあります。
金澤さん)
フラッと来る人たちもそうだけど、悩み事があって来るでもいいし、とりあえず買い物する、ただ見に行く、でも問題ない。何もすることがないから行ってみようかなと思ってもらえる場所になっている。それは大きかったなと思います。
私たちがこういう場所を作りたいと思って、シェアキッチンだけとか飲食店だけ、みたいな感じでやっていたら、多分そんな場所にはなっていなかったと思うんです。
今後の活動への思いを教えてください
金澤さん)
お店もまわるようになってきたし、スタッフも動けるようになってきました。そもそも「とこらぼ」という名前は、色んな人とコラボしたり、いろんな「とこ」を「ラボ」のような楽しい場所にしたいという意味があるんです。だからナガスタができて終わりでなく、ナガスタの次に空き店舗で何を作るかとか、最近はそういう話をしているかもしれません。次はどういう場所が佐伯にあったら良いんだろうとか、そういう目線で地域を見ているところはあります。
黒木さん)
あとは自分たちのプロモーションの仕方を考えていて、やっていることの見せ方やSNSでの発信方法なんかも考えています。あとは、海外の人とかも、幅広くターゲットにしていきたいです。今は、小さい子から高齢者、地域で働くベトナムやフィリピンの人もお客さんとして来て、仲良くなっている過程があるから、どんどん壁をなくしていきたいなと思っているんですよ。
金澤さん)
ここを訪れる人たちは確実に広がってると思います。
黒木さん)
最近のうねりがすごくおもしろい。
金澤さん)
最近「ナガスタ2号店どうするの?」と時々言われます。「他の場所で作りたいんだったら、システムを教えるから、持っていって。」とずっと言っていて、これが広がってほしいなと思うんです。
ナガスタのやり方を隠したいとかもないし、広がっていった方が面白いです。ナガスタのやり方が広がって「ナガスタじるし」みたいになって、「これってナガスタじるしのやり方でできたお店なんだ~」となったら面白いかも。広めたいけど、やり方を自分たちがまだ整理できてない。「自分たちで2号店を作りたい?」と言われたら違和感がありますけど、作りたい人がいれば、やり方を教えたいと思っています。
まち活にチャレンジしてみたい方へのメッセージをお願いします
金澤さん)
将来のイメージや目標が共有できる人と出会うことが最初の大切なステップかもしれません。やってみたいこと、どんな町に、地域にしたいのか、どんな暮らしをつくりたいのかを発言していくことも大切だと思います。
黒木さん)
自分たちだけでやろうとせず、地域の人や周りの人の「得意」や「好きなこと」を見つけて、どんどん頼ってみてください。そのことで周りも関わりやすくなり、よりみんながワクワクするまち活になっていくと思います。